土地区画整理事業とは
Ⅰ.土地区画整理事業とは
1.まちづくりと土地区画整理事業について
- まちづくりのひとつの手法
- 土地区画整理事業は、まちづくりのハードな部分を受け持つ整備手法のうちのひとつで、一定の広がりを持って「まち」を整備することができる、いわゆる面整備の代表的な手法です。
- 土地区画整理事業の本質
- 土地区画整理事業の目的について、土地区画整理法は、下記の通り定めています。
(定義)
法第2条
この法律において「土地区画整理事業」とは、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、この法律で定めるところに従って行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業をいう。
- 土地区画整理事業は、「土地の区画形質の変更」と「公共施設の新設又は変更」という仕組みを使って「公共施設の整備」と「宅地の利用増進」を実現しようとするところに特徴があります。
- 「区画形質の変更」を別の言葉で言い換えると「換地」であり、それが土地区画整理事業の本質であると言えます。
- 用地買収と土地区画整理事業
用地買収
用地買収による幹線道整備も重要な役割を果たしていますが、上図のように、
- 道路の計画線にかかった人(Bさん・Mさん)は 地区外に転出せざるを得ません。
- 買収で不整形な土地 (Bさん・K さん・Mさん)が残り、有効利用できません。
- 従来からの道路と 複雑な交差点の形状が残り安全な交通処理ができません。
また、
- 裏手にあった土地(Aさん)が幹線道路沿いに出てきます。協力の割合が高い(Bさん)は立ち退いて、協力の割合が低い人(Aさん)が恩恵を受ける、という不公平も生じてしまいます。
土地区画整理事業
これに比べて、土地区画整理事業は、換地という仕組みを使って、
- 道路にかかる人(Bさん・Mさん)も換地が定められるので施行前と同じ場所で生活再建 できます。
- 交差点が機能的に整理されて、安全が確保されます。
- 沿道に不整形で土地利用が困難な土地が残ることもありません。
- 道路に面する割合が施行前後で大きく変わらないことで公平性が保たれます。
- 土地区画整理事業は、一定の広がりをもって、幹線道路などの基盤整備に併せて身近な生活道路網を整備することができ、用地買収方式では解決できない問題を解決できる優れた手法です。
- 土地区画整理事業の流れ
- 企画・調査
- まちづくりの必要な地域について、どのようなまちづくりが良いか、調査 に基づいて構想・方針を定めます。
- 都市計画
- 公共団体施行の土地区画整理事業、または組合施行でも国費導入を予定する場合は、都市計画決定し、都市計画事業として施行する必要があります。
- 事業計画
- 事業の基本方針=青写真を定めて、大臣や知事の認可を受けます。組合施行の場合は組合設立認可の手続き、公共団体施行の場合は設計の概要の認可の手続きを行います。
- 換地設計
- 事業計画に定められた設計図に基づいて、一人一人の宅地を再配置することを換地設計といいます。
- 仮換地指定:
- 換地設計に基づいて、新しく使える仮換地の位置・形状・地積を指定します。通常、仮換地指定は、移転・工事の予定に合わせて順次行われます。
- 移転・補償
- 建物等の支障物件がある場合は、契約により移転補償金を支払って建物を移転していただきます。
- 工 事
- 建物が移転した後に、道路や公園の築造工事、ライフラインの移設・新設工事、宅地の整地工事を行います。
の中は、繰り返し行います。
- 換地計画・換地処分
- 地区全体の工事が終わったら、 出来形確認測量を行い、その測量成果をもとに換地計画を定め、①換地の権利関係を確定し、②清算金の額を定めます。
- 清算
- 清算金の徴収・交付を行って、事業は完了します。
2.施行者について
土地区画整理事業の施行者になれるのは、次の7者です。
- ①個人施行 (法3条1項、4条~13条)
- 個人施行は、宅地の所有者または借地権者が、一人で、あるいは数人共同して施行するものです。個人施行にあたっては、規約もしくは規準と事業計画を定め、関係権利者全員の同意を得て、事業の施行について知事の認可を得なければなりません(法4条、省令2条1項1号)。
- ②組合施行 (法3条2項、14条~51条)
- 組合施行は、宅地の所有者または借地権者が7人以上共同して、土地区画整理組合を設立して施行するものです。
組合設立にあたっては、定款および事業計画を定め、施行地区となる区域内の土地所有者および借地権者のそれぞれ3分の2以上の同意(土地所有者および借地権者の地積の合計についても3分の2以上)を得て(法 18 条)、組合の設立について知事の認可を得なければなりません(法14条1項)。
- ③会社施行 (法3条3項、51条の2~51条の13)
- 会社施行は、地権者(土地所有者・借地権者)が議決権の過半数を保有し、それらの地権者と会社が宅地と借地の総地積の3分の2以上を所有もしくは借地している区画整理会社(株式会社)が施行するものです(法3条3項)。
施行にあたっては、規準および事業計画を定め、施行地区となるべき区域内の土地所有者および借地権者のそれぞれ3分の2以上の同意を得て(法51条6)、土地区画整理事 業の施行について知事の認可を得なければなりません(法51条の2)。
- ④地方公共団体施行 (法3条4項、52条~65条)
- 都道府県または市町村が施行する区画整理事業です。都市施設の整備等、都市全体の都市計画的視点から、都市計画事業として施行されます(法3条4項、3条の4)。
事業を施行する場合は、施行規程および事業計画を定め、事業計画の内の設計の概要について、都道府県知事または国土交通大臣の認可を受けます(法52条)。
- ⑤国土交通大臣施行 (法3条5項、66 条~71 条)
- 国の利害に重大な関係があり、災害の発生その他特別な事情がある場合に、国土交通大臣が自ら施行する区画整理事業です(法3条5項)。施行にあたっては、施行規程を国土大臣省令で定め、事業計画を決定し、大臣が公告します。
- ⑥都市再生機構施行 (法3条の2、71条の2~71条の6)
- 都市再生機構が、その団体の目的に照らして施行する事業です。
施行にあたっては、施行規程及び事業計画を定め、国土交通大臣の認可を受けます。
- ⑦地方住宅供給公社施行 (法3条の3、71条の2~71条の6)
- 地方住宅供給公社が、その団体の目的に照らして施行する事業です。
施行にあたっては、施行規程及び事業計画を定め、国土交通大臣又は都道府県知事の認可を受けます。
3.事業が可能な区域について
土地区画整理事業の施行は、都市計画区域 (ひとまとまりの都市として整備・開発・保全すべき区域)内に限られます(法2条1項)。
- 組合施行の場合
- 国費を受けない場合は、都市計画事業として施行する必要がないので、開発許可の基 準(都市計画法第 34 条)に該当するものであれば、市街化調整区域においても施行するこ とができます。
- 公共団体施行の場合
- 施行区域 (土地区画整理事業について都市計画決定された区域。「施行地区」とは違います。)内において都市計画事業として施行しなければなりません(法3条の4)。 また、都市計画事業として施行される市街地開発事業は、市街化区域または区域区分の
定められていない都市計画区域(非線引都市計画区域)内に限定されています(都市計画法 13 条1項 12 号)ので、結果として、公共団体は市街化調整区域では土地区画整理事業を施行することができません。
4.換地について
土地区画整理事業によって、現在の宅地に代えて新しく定められる宅地を換地と言います。
土地の形と面積を変えるためには、通常ですと、土地を分筆したり合筆したり交換したりという作業(=交換分合)を繰り返していくことになりますが、土地区画整理事業の換地という仕組みでは、いったん従前地をすべて抹消して白紙の状態にし、新たに換地を創設することによって一気に入れ替えを完成させます。換地はほかの手法には見られない、土地区画整理事業独特の卓越した仕組みであると言えます。
- 照応の原則
- 土地区画整理法は、換地設計にあたっての原則を次のように定めています。
照応の原則) 換地設計にあたっては、換地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が、従前地と照応するように定めなければならない。(法89条参照)
これが 照応の原則 と言われるものです。
換地は、この照応の原則を基にして行われます。
5.減歩について
- 減歩
- 土地区画整理事業で新たな公共施設が整備されることによって、その反作用として宅地の面積が減少することを減歩と言います。減歩の「歩」は「坪」と同じ意味で、減歩とは 「減った坪数」という意味です。
(1 町 =10反 1反=10畝 1畝=30歩 1 歩=1 坪=3.3 m² 1町=3000 歩=約1ha)
- 公共減歩と保留地減歩
公共減歩
公共施設の整備改善が土地区画整理事業のひとつの目的であることから、公共施設の面 積が増加する分、宅地面積が減少し、この面積の減少分を施行地区内の地権者が減歩(公共 減歩)という形で負担することは、土地区画整理法が当然に予定していることです。
保留地減歩
土地区画整理事業の費用に充てるために、施行地区内に保留地を定めることができ、この保留地も施行地区内の地権者の減歩(保留地減歩)による負担となります。
- この公共減歩と保留地減歩を合わせて合算減歩と言います。
6.宅地の利用増進について
次の図で、施行前後の地積と地価水準(m²あたり価格)を比較して、宅地の利用増進と減歩の関係を見てみます。点線が施行前、実線が施行後を表しています。
|
施行前 |
施行後 |
宅地地積 (m²) |
100 |
75 |
宅地価格 (円/m²) |
100 |
140 |
総価額 (円) |
10,000 |
10,500 |
清算に用いる■ 減歩率= 1 - 75/100 = 0.25 = 25%
■ 増進率(事業計画に定める)= 140 ÷ 100 = 1.40
■ 比例率(比例係数)
- 増進率
- 施行前の地積が 100 で価格が 100 だったとします。施行後は 25% の減歩を負担 して地積が75に減りますが、宅地価格が上昇して140になったとします。このとき、施行前後の地価水準(m²あたり価格)の比を増進率と言い、事業計画に記載します。
図では、施行前の宅地価格 100 と、施行後の宅地価格 140 との比 1.40 が増進率 で、40%の増進があると言います。
一般に、事業計画に定める増進率が 1.0 以下になることはありません。
- ② 比例率(比例係数)
- 保留地を除く施行前後の宅地総価額の比を比例率 (または比例係数)と言います。
図では、施行前の宅地総価額10,000と、施行後の宅地総価額10,500の比1.05が比例率で、減歩よりも利用増進の方が5%上回っていると言うことができます。図に表すと、横軸に減歩、縦軸に事業計画に定める増進率、四角形の面積で比例率が表されます。
- さらにこの関係を突き詰めて考えると、比例率が1.0に満たないという可能性が有 ることにお気づきでしょう。つまり、利用増進よりも減歩率の方が大きい、別の言葉で言えば、減歩率に相当する利用増進がない場合は、比例率<1.0 ということがあり得るわけです。
比例率は、換地設計および清算の際に使用します。
7.清算について
- 清算の性格
- 清算は、減歩に対する補償ではありません。
換地は原則として従前地に照応するように定めることから、照応している限りにおいて、清算を生じないはずのものですが、換地相互間に不均衡が生じた場合は、金銭の徴収と交付によって是正しなければならないとされています(法94条)。清算すべき換地の不均衡としては、次のようなものが想定されます。
- 清算すべき不均衡
照応の例外による不均衡
- 本人からの申し出または同意に基づいて、換地を定めないとき
- 小宅地の減歩を緩和する場合、または、そのことによって小宅地以外の宅地が強減歩となる場合
- 創設換地を定めたとき
- 公益施設の用に供している宅地について、地積について特別な定めをしたとき
- 公共施設の用に供している宅地について、換地を定めないとき
これらは換地相互間に不均衡を生じさせていますから、清算金により調整します。
設計・施工上生じる不均衡
- 街区間の面積の過不足や換地相互間の関係から、換地設計で理論上の寸法・面積が 厳密に確保できないとき
- 施工の精度が確保されないときなど、微細ではありますが、不均衡が生じることは、ほとんど避けることができません。これらも当然に清算の対象となります。
清算金の価格水準
清算金の性格が、損失の補償ではなく、換地の不均衡の是正であることから、清算金の算出にあたって、その価格水準は時価である必要はなく、施行地区内の権利者の納得の得られる水準であればよいとされています。
通常、清算の価格水準は、固定資産税もしくは相続税課税の価格水準を参考にして定められるのが一般的です。
参考:(公社)街づくり区画整理協会 土地区画整理セミナー
『土地区画整理の仕組みと運用』テキスト